こんにちは、木暮太一です。

今日のテーマは『出版契約書』についてです。

出版契約書について、最初はかなりびっくりすると思います。そして特に金融業界とか不動産業界とかで本業で活動されている方、かなり面食らうと思います。でも出版業界の商習慣なんです。

何をビックリするか? 出版業界の契約書はすべて終わってから結ぶこと、です。

本を書いているときや出版決定のときには契約書を結びません。そして原稿を書く前も契約書を結びません。そして作業がいろいろ進んでいても契約書は結びません。最終的に本が刷り上がって流通したときに、「じゃあそろそろ契約書結びましょうか」って契約書の雛型が送られてきて、「これでいいですか?」みたいな感じでトータル全部終わってから契約書の話がされると思って下さい。

だから途中でいきなり話が変わることもあれば、最悪「打ち切り」もありえます。契約を結んでいないので、出版社に文句を言っても、泣きついても無駄です。「ごめんなさい」で終わってしまいます。これって、とても怖いことですよね。原稿を書いても本にならずに逃げられてしまうことがあり得ます。

ずるいですよね。ひどいですよね。でも、一概に出版社に有利な内容というわけではないんです。契約を結ぶということは、絶対に納期がありますよね。実際に、出版契約書の中には「いついつまでに原稿を書く」とか「原稿を出す」とかいう条項があるんです。

でも、約束通りに原稿を書けない著者が非常に多いんです。実際には、スケジュールを守る著者は全体の10%もいないんじゃないかと思います。

ということは、もしスケジュールを契約でガチガチに縛ってしまうと、著者が契約違反になるケースがめちゃめちゃあるということです。
そして、その契約書通りのスケジュールで原稿が書けなかったら「これ損害賠償ってことになりますよね」とか「利益補填して下さい」とか、著者を追い込むことになってしまうんです。

で、出版業界あんまりそういうガチガチな文化ではないので、「できれば著者には頑張ってスケジュール通りに書いてもらいたいけど、でも書けなかったら書けなかったでその時考えましょう」みたいな、ちょっとゆるい文化なんですよね。そういうことも含めて「ガチガチに固めるのは良くないから契約書を後にします」っていう考え方だと思います。

ぼくも出版社ですから、いろいろ実務で著者とやり取りしてきました。やっぱり書けない著者が多いんですよね。ほとんどの著者がスケジュール通りに書けませんから、契約書は結ばない方が著者のためとすら僕は思います。

ただし! 契約書がない中で執筆をしたり色々作業したりしていかなきゃいけないんですよ。出版の話が進んでいたけれども、ちょっとこちらの事情で取りやめにさせて下さい」と出版社から言われることが、普通にあります。僕も2回あります。原稿を全部書いたのに途中で「やっぱりやめた!」って言われるんですよ。でも契約書がないから何も言えないんですよね。

「なあなあ」になることで著者が守られている側面もあるんですけれども、もちろん出版社が反故にするということもありますから、ここは気をつけて行かなきゃいけないです。

ではどうすればいいか? 「自分は完全にスケジュール通りにできるんだ」と「絶対に約束守る」という自信がある方は出版契約書を先に出してもらって「契約書結びましょう」って言ってもいいと思います。でも、けっこうキツイですよ。

そこだけは自分の頭の中でもう1回考えて判断した方がいいかな、と思います。