出版社から出版のオファーが来た! これはめちゃうれしいことですよね。
ただ最近は喜べないケースもあります。「自費出版の営業」の可能性もあるからです。
自費出版とは、著者がお金を負担して出版することです。印刷代やデザイン費、その他のコストを負担し、さらには出版社の利益まで補填して出す出版するケースがあります。
かつては、自費出版の会社と、ふつうの出版(商業出版)をする会社が明確に分かれていました。なので、A出版社から打診が来たら商業出版、B出版社からの話は自費出版、とすぐ判断することができた。
でも最近は、商業出版を専門にやってきた出版社が自費出版に手を出し始めています。
というよりむしろ、かなり多くの出版社が自費出版に乗り出しています。ぼくの感覚だと、もともと商業出版しかしてなかった出版社のうち、7割くらいの出版社が自費出版を手掛けるようになっています。
ただそんなケースでも「自費出版のご提案です」とは言いません。
この記事では、自費出版でカモにされないための見分け方や対策、自費出版にかかる費用など、知っておきたい情報をお伝えします。
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「自費出版」と言わず、出版社が使うキーワード
そう言う代わりに、
1)「企業出版です」といったり
2)「プロジェクト出版です」といったり
3)「ブランディング出版です」といったり
さらには
4)「商業出版です。ただ、プロモーションのご相談をさせてください」と言ってきたりします。
1~3の表現で打診された場合、まず自費出版を疑いましょう。通常の商業出版のケースでこれらのフレーズが使われることはまずあり得ません。
最後の「プロモーションの相談をさせてください」というフレーズがクセモノなんですよね。もちろん著者として自分の本のプロモーションを頑張るのは当然なので、そういう意味では「もちろん私も精一杯がんばります!」と答える場面かもしれない。
でもこの「プロモーションの相談」とは、そういう意味ではなく、「売れるように、お金出してください」という意味なんです。もっと端的に言うと、「あなたのお金で、買い取ってください」という意味です。
しかもこの買い取り額は10万、20万のレベルじゃないです。だいたい400、500万円を意味しています。これはもはや自費出版の領域ですね。
企業から商業出版の打診が来ても、もしかしたらそれは「実質・自費出版」かもしれません。
最初から「お金出してください」とは言ってきません
しかもこの買い取りについては、最初ではなく出版のプロセスがある程度進んだタイミングで打診されます。企画をがんばってつくり、がんばってネタを出し、いよいよ出版社内の最終会議を通過させるってタイミングで「じつはプロモーションの相談もさせてもらいたいと思っていまして……」と切り出されます。
このタイミングで言われると、著者としても引くに引けないことがあります。
これまでがんばっていろいろ考えてきたし、何より「ついに出版できる!」という気分になっちゃってます。
このタイミングでお金の話をされるのはかなりしんどいですが、残念ながらそんなケースが割と多いです。
自費出版になったとき起こりうるリスクやトラブル
このように、出版に向けてある程度進行している状態で自費出版を切り出されてしまったら、「やっぱり本出すのやめます」とは言いにくいですよね。
しかも「自費出版」というワードが使われないことも多いので、そうなることに気付けずに制作を進めてしまうケースだってあります。
本が出せるとはいえ、自費出版で起こりうるリスクやトラブルもあるので、先に知識をつけておくようにしましょう。
書店に並ばない・売れない
まず、本は書店に並ばなければ売れません。
オンラインではなく、リアル書店で大きな売り場を作ってもらえたり、売り出されたりすることで本は売れるのです。
ここで、書店で売り場を作るのは出版社ではなく書店のスタッフさんです。
出版社は書店に対して「大きな売り場作ってください」という営業まではしてくれないので、せっかく出版まで行きつけても、本屋さんに並ばなかったりすぐに回収されてしまったりで売れる機会がなくなってしまう、というリスクがあります。
最初に「この本売れると思います!出版しましょう!」とオファーを受けても、ふたを開けてみたら自費出版、さらに本が売れずに在庫が残る…ということも、考えられるのです。
校正がしっかりされない
基本的には、出版社側が誤字脱字チェックなどの校正を行います。
ここでしっかり校正がなされず誤字脱字が残ってしまっても、紙の本ではほとんどの場合刷り直しができません。
本を出版するときには著者と出版社の間で契約書を結びますが、その内容が敢えて曖昧にされていて、校正が実は入っていなかった、というケースが考えられます。
しかも本が世に出てしまったら、誤字脱字は著者の責任に。
追加料金がかかることも
自費出版の場合、高額な見積もりを出されてしまうことがあるのですが、さらに想定外の追加料金がかかることもあります。
例えば上で記載した通り、校正は当初の契約に含まれておらず別料金だったり、無用な増刷だったり。カモを探している詐欺会社も残念ながらあるようなので、不透明な請求が出される場合は要注意です。
編集者・出版社側との対人トラブル
「自費出版」自体は、いくつかある出版方法のうちのひとつであり、悪いことではありません。
自費出版は費用を自分で負担する分、本の内容をある程度自由に決められるというメリットがあります。
しかし編集者側から、出版社側の都合を押し付けるような指摘・アドバイスをされてしまうケースもあり、これが意外とトラブルになりやすいです。
プラスになる指摘であればもちろん聞くべきなのですが、「これは出版社側の都合だな」と感じるようなものは、聞き入れる必要はないでしょう。編集者に従うだけであれば、自費出版のメリットが活かせないですからね。
対応によっては商業出版の候補から外れてしまう
トラブルに見舞われないために、事前に契約内容を確認しておく必要があります。
とはいえ、単に「自費出版じゃないですよね!?」と強めに直接的な質問をしていいわけじゃないです。あまりストレートな言い方すると、編集者の気分を害してしまうことがあります。となると商業出版として検討してくれてた編集者も「あの著者、うるさそうだからやめておこう」ともなりかねません。
出版業界に「正しい聞き方」がありますが、それ以前に相手に敬意をもってやり取りをするようにしましょう。
自費出版トラブルに遭わないための対策
契約書のサインをその場ですぐしない
出版のオファーをもらえるのは、とても嬉しいことですよね。気分が上がって、その場ですぐ「オッケー!」と言いたくなりますが、それはとても危険。一度冷静になりましょう。
契約書の内容を一度持ち帰って、しっかり確認することが第一です。
その中で不明なところがあれば、先に確認しておきます。例えば追加料金の有無や、本になった場合どこの書店にどの期間並ぶのか、など。
また、契約のお話が出たときには、担当者の名刺をしっかりもらっておくことも重要です。あとから問い合わせるときに氏名や連絡先があれば役立ちますし、そもそも詐欺会社であれば、名刺を出すことを嫌がる可能性があります。
複数の出版社から見積もりをとる
自費出版を検討する際は、いくつかの出版社から見積もりを取るのが基本です。
いわゆる「相見積もり(あいみつ)」ですね。ですが、比較するのは金額だけでなく、サービス内容、過去の自費出版の実績などもです。
その上で、実績の多い出版社が選べるのが理想です。
過去に自費出版の本が成功している、つまり編集者が本のクオリティを上げてくれたり、売り出したりしてくれているような出版社であれば、自分の成功確率も上がります。
過去の自費出版の事例を確認し、トラブルが起こることが少ないような出版社を見極めるようにしましょう。
出版社のセールストークを本気にしすぎない
「書籍化したら絶対売れますよ!」
「自費で●●円かかりますが、本の売り上げで回収できますよ」
など、甘い言葉で営業をかけられることがあります。
可能性はゼロではないにしろ、これらは奇跡に近いことなので、鵜吞みにしないようにしてください。
有名な作家が書いた本ですら、入手が困難になるほど売れるということが稀な時代です。無名から急にベストセラーというのは、夢のまた夢のお話。
甘い蜜の言葉をかけられても信用しすぎず、それよりもせっかくの自費出版なので、自分の理想や目的を果たせるような本を作れるよう、頑張っていきましょう。