ビジネス書を書いて売れると「次はストーリー風の本を書きたい」と言う人が多くいます。商業出版をしている人から、よくそういう相談を受けます。けど、ぼくは全力で止めます。

ぼくは27歳から出版社を経営していて、ずっと書店での実売データ(POSデータ)を分析しています。ベストセラーを出した人が次にストーリー風の本を書いたときにどういう結果になっているか、ぼくはデータで知ってます。なので止めるんです。

ビジネス書に限らず、自分の体験談や伝えたいメッセージをストーリー調で書きたいと考える人は割と多くいます。気持ちはすごくわかるんです。小説のようなストーリー調の本にした方が作品感が強く出るし、かっこいい。

でもやめた方がいいです。ぼくはかなり力強く止めます。

まず、ストーリーの方が読みやすいと考えるのは大きな誤解です。普段読んでいるストーリー作品をイメージして「ストーリーの方が読みやすい」と考えるはよろしくないです。ぼくらが目にしているストーリーはそもそも超一流なんです。だから読みやすいんです。ストーリーだから読みやすいんじゃないんです。

そしてぼくら素人が書くストーリーはマジで読めたものではありません。

ビジネス書は、言ってみれば講演と同じようなコンテンツです。一方でストーリーを書くのは、演劇をやるのと同じです。企業内の講演ができても、同じ場所で演劇をやったらおそらく強烈にスベりますよね。それと同じことなんです。

ストーリー風のビジネス書を書くためには、ビジネス書として読んでおもしろいノウハウとストーリーとして読んでおもしろい筆力を兼ね備えていなければいけないわけです。しかも、ちょっとうまく書けるレベルではお話にならず、相手が引き込まれるくらいの筆力が必要です。

ぜんぜん違う2つの能力が長けていなければストーリー風のビジネス書は書けない(文章として書けても、絶対売れない)。ちなみに、ぼくには絶対ムリです。みんな、『夢をかなえるゾウ』や『嫌われる勇気』のような本を出せることを夢見ているんだけど、あれは超一流の書き手と超一流の編集者が何年もかけて仕上げたものです。

夢ゾウみたいに作品として完成している本を目指すのではなくまずは周りの人を救える知識、ノウハウを出しきることに集中したほうがいい結果が生まれます。

ただ、それでもストーリーの本を出すことを諦められない場合は、チャレンジしてもいいと思います。小説や絵本などを出す場合は、作品をすべて書き、それを出版社が主催している賞に応募するところからスタートです。そこで大賞をもらったり、編集者の目に留まれば、もしかしたらデビューできるかもしれません。