こんにちは、 木暮太一です。
さっそく本題に入っていきますが、まずは皆さんに出版業界の現状をお伝えしたいと思います。
ポイントはいくつかありますが、まず冒頭で皆さんに知って頂きたいのはこれなんですよね。
Contents
最初のポイント。『めちゃめちゃたくさんの本が出ています』
年に7万冊、1営業日あたり300冊弱、新しい本が出ています。
なので「今日は私の本の発売日だ」っていうのは正しいんですけど、半分は間違ってるんです。
「今日は私の本も出る日」なんですよ。
そして横を見ると、他の人の本が300冊並んでいます。
300冊一気によーいドンで全国に流通するんです。
これだけ新しい本が毎日出ている中で、僕らの本は読者の目に留まり、そして選ばれなければいけない。
で、後で話しますけれども、書店にずっと並んでいなければ僕らの本は売れていかないんです。
現代では人の注意や興味関心はそんなに長く持ちません。
なので、「半年前に読みたかった本を色んな書店で探して買う」とか「Amazonで探して買う」とか、「四方八方探してやっとの思いで買う」っていう人はあまりいないわけです。
僕らがまず考えなければいけないのは、この『大量に本が出ている中で勝ち残る』ということです。
それが兎にも角にも大事なポイントということですね。
そして出版業界の現状2つめ。『初版はどんどん少なくなっています』
初版と言うのは最初に刷る部数のこと。印刷する部数のことです。本が出版されます。当然、出版するときに本が印刷されます。その印刷される部数のことを「初版」と言います。この初版が、どんどん少なくなっているんです。
バブル期だった1990年代の初頭は、初版3万部が当たり前でした。「本出します」って言うと、3万部スタートなんですよ。これはけっこういい時代ですね。
本を出したら諸半分の印税はすぐ入ってきます。本1冊1500円として印税率を10%とすると、大体400万から500万くらいの印税がドンと入ってくるわけです。本を書くだけで400万500万入ってきたんですよ。
それが15年経って、ぼくが出版社1社めを立ち上げたとき――2004年くらいですね、初版1万部が当たり前でした。つまり90年から15年経って、3分の1になっちゃったわけですよ。まあでも初版1万部っていうのはそんなに悪くない数字です。今はどうなっているか、ここにも書いてありますけども初版4000部もしくは3000部。ぼくの受講生で言うと初版1000部という方もいました。
まあ、「出版が決まりました」「本が出ます」と言っても全国で2000部も流通しないという感じになっているんですよね。これがいいか悪いかは別にして(じつはいい面もあるんです)、初版がどんどん少なくなっているって言うことをぼくらは知っておかなければいけない。
これは後の話も関連しますけれども、初版が少なくなるとどうなるか。
『書店に流通する部数が少なくなりますね』
そして、3万部刷っていたときと4000部しか刷らないとき、まあざっくり言うと10分の1になっちゃってるわけじゃないですか。10分の1しか流通しないということは、「ほとんどが1冊しか送られない書店」ということなんですね。
もともとは各10冊くらい書店に流通していました。でもそれがドンドンドンドン削られていって、今は1冊しか流通しない書店がかなり多くなっています。なので本を出版しました、本屋さん見に行こう。で、「僕の本並んでるかな」「私の本並んでるかな」って見に行っても、大体1冊しか流通してないから、平積みにはなってないんですよ。大体背表紙が見えている――これを「棚差し」って言いますが、本棚に本が刺さっているような状態で並んでいます。
それを見て「私の本、注目されてないのかな」とか「売れないのかな」って心配する人もいるんですけど、そうじゃないんです。ただ単に刷る部数が少ないから平積みできないんです。ただ単にそれだけの話ですから、仮に平積みされていないからといって、そこでガックリ来ないで下さい。今の出版業界は、そういう現状ですからね。
そして3番め。
『より小分け、よりコスパ』
昔はかなり分厚い本がたくさん流通していたんですよ。出版される点数もそんなに多くなく、本屋さんに並ぶ冊数もそんなに多くなかったんです。で、1冊1冊がかなり重たい感じ。かなりヘビーな感じで、中身も濃かった一方で、読むのが大変な感じ。
そういう本がありました。でも今は、「より小分け、よりコスパ」です。
小分けというのは、「1つのコンテンツを細分化して今日はこのパートだけ本にして、流通します」みたいな感じです。
例えばネットマーケティングを例に説明します。ネットマーケティングの本を出すにしても、ネットマーケティング全般のことを1冊にまとめることはしません。「ネットマーケティングの広告の1行目を作る本」とか、「ネットマーケティングの中のSEOを上手く成功させるためのブログの書き方」とか、本のテーマ自体がかなり小分けされていってるんですよね。
そして、小分けされた分、数が増えています。昔だったら1冊で収まっていたような本が今は10冊15冊かけてコンテンツ語るような感じです。テーマが小分けされているわけです。
そして同時に「よりコスパがいい本」が好まれるようになりました。コスパというのはどういう意味かというと、「手っ取り早く成果が得られる」ということです。
たとえば「この本を読んで色んな努力や勉強をしなければいけない。その結果として壮大なものを得るから、あなたも頑張って下さい」っていうような本があるとします。これはコスパが悪い本なんです。
言い方を変えると、「本を読んでちゃちゃっとなにかが手に入る」「自分の労力をそんなにかけなくても、ちゃちゃっと目指してるものが貰える」という感じの本が、より好まれるようになりました。
つまり、ここで言うコスパは「金額ではなくて自分の労力のこと」なんです。
「労力をあまりかけずに、ある程度の結果が得られる」。そういう謳い文句をしている本が売れるようになりました。
ここはね、けっこう大事なんです。自分が語りたいことがかなり本質的なことで、「この本質を認識づけるために100時間のトレーニングが必要だ」という風に思ってたとしても、それを言ってしまうと読者は全然ついてこなくなります。
だとしたらどうしなきゃいけないか?
その100時間かかるコンテンツを100分割して「今日は1時間でこれが手に入りました。明日は1時間でこれが手に入ります。明後日は1時間でこのパートが手に入ります」っていう感じでドンドン小分けして、1つ1つのゴールをより身近にしなければいけないんですよ。
そういう本じゃないと売れていかない、っていうのが今の出版業界の現状です。
そして4つめ。本1冊10万字はウソです。
昔から『本1冊10万字』っていう風に言われているんですけど、これは都市伝説です。というか、言葉を選ばずに言えばそれは「嘘」です。
本1冊に10万字も詰め込んだら、その本はすごく字が小さいか、メチャクチャ分厚いか、どちらかになってしまいます。そんな読むのに苦労する本はいまは出版されないので、「本1冊で10万字」じゃないです。
いまは1冊6万字から8万字です。そして、ページ数にして192から256ページ。このぐらいに収めなければいけません。昔に比べたら、かなり文字数少なくなりました。でも、このくらい手軽な感じで出さなければいけないんです。10万字の本はかなりイレギュラーで、通常はそんなに書きません。
そして最後の5つめ。書店員さんは超激務です。
超激務なんですけど、ほとんどがパートさんとかバイトさんなんです。
正社員の方はあんまりいません。紀伊國屋書店さんとか大手のチェーン店では正社員の方が多いんですけれども、中規模の書店とかショッピングセンターに入ってる感じの書店、TSUTAYAさんとかもそうかもしれないですが――ほとんどがパートさんとかバイトさんです。そして店長さんだけ正社員、っていうようなパターンがどんどん増えています。
書店員さんの激務を担っているのがほとんどパートさんとかバイトさんなんです。で、その方々の中には「本が好きだから本屋さんでバイトしよう」っていう方ももちろんいらっしゃいます。
しかし、中には「たまたま」とか「家から近いからそこでバイトする」という方もいらっしゃるんですよね。ここが、ポイントです。
ぼくらの本が出たときに、書店員さんは必ずしも僕らの本を分析して、いろいろ考えて並べてくれるわけじゃないんです。そもそも超激務ですから、分析したり考えたりする暇はありません。どこに並べるか、どの本の隣に並べるか、はパッと見で判断します。そしてよくわかんないものは書店には置かずにすぐ返品します。
誤解を恐れずに言えば、ぼくらの本を真剣に考えている方は最初は誰一人いません。自分の本をちゃんと売ろうとしているのは、自分(著者)一人なんです。
いろんなところを考えて「こういう読者に届けたい」とか「こういう風に売っていきたい」とか「こういう風に見せたい」って考えているのは、「自分だけだ」と思った方がいいです。この認識がずれると、いくら頑張っても一人で勘違いして空回りしちゃうってことになります。