今回は、著者の権利に関するものです。出版業界にはいろいろなルールがあります。そして、一般の方からするとかなり意外な決まりがあります。著者として「これはやってもいいだろう」と思っていることがダメだったり、「これはやっちゃダメだろう」と思っていることが、実は良かったりするんですね。

いずれにしても、出版業界のルールと違うことをやってしまうと著者が不利益をこうむってしまうので、これをあらかじめ知っておくことがすごく大事なことになります。

この記事で、著者の認識と出版業界の「常識」のズレを解説します。このポイントをしっかり押さえて、思わぬ落とし穴にはまらないようにしましょう!

今回取り上げるテーマは、こちらです。ズバリ、「自分が出した本と同じような本を、別の出版社で出して良いか」という事例です。

Aという出版社から本を出して、それが売れたとします。すると、B、C、Dという別の出版社からオファーが来ます。その時に、B、C、Dから打診があるのは、「出版社Aで出した本と同じような本を出してほしい」と言われるんですね。

はたして、これはやって良いのか?

そのテーマについては出版社Aから出して、売れました。Aでは引き続きその本を売ろうとしているわけです。にもかかわらず、B、C、Dで、その本と似たようなテーマ、さらに言うと酷似したテーマの本を出して良いのかどうか。

冷静に考えると、Aで出した本と同じような本を別の出版社から出すとバッティングしますよね。読者としても混乱しますので、いけない、と感じる方が多いですよね。

でも、答えとしては「良い」んです。問題ないんですよ。実際に書店へ行くと、同じ著者が書いた同じような(と言うと失礼ですが)本が、別の出版社から出ています。

出版社で本を出すときには出版契約書を結びます。出版契約書には、「似たような本を出してはいけない」「このテーマに関しては、他社からは出してはいけない」というような条文があります。

その条文はあります。でも、あるんですが、大丈夫なんです。こう言うと、「悪いことをしても見つからないから大丈夫」みたいに聞こえるかもしれませんが、そういうことではありません。

出版契約書で縛られている「似たような本を出してはいけない」というのは、『同じ内容』を『同じ文章』で、『明らかに同じ本』として出してはいけない、という意味合いです。

ですから、1つのテーマを本に書いてそれが売れたら、別の出版社でも出してかまいません。というか、そうじゃないと、本って続かないんですね。同じ著者が書くので、厳密に切り分けようとしてもどうしても重複するところはあります。

自分の発想や考え方を重視しているポイントが一緒になりますから、Aで出した本とB、C、Dで出した本を明確に分けようとしてもできないんですね。少なからずかぶってしまうのは仕方がない、と誰もが認めています。

実際ぼくも、資本論を扱った働き方とか、経済の見方、のような切り口で本を5冊くらい出していますが、全部違う出版社です。最初に本が売れると、そのテーマを使ってうちからも本を出してください、というオファーが多数来るんですね。

ただ、ぼくとしても、そのまま全く同じものを出すと格好悪いというか、面白くないので、同じようなテーマは扱いますが、多少アレンジをして別の出版社から出します。

自分が持っているネタを1つの出版社から出したら、別の出版社からも出して良い。ただし、最初に出した本と同じ文章だと、それはマズいことになります。

イメージできましたか?

ぼくの感覚では、3分の1くらいまで同じ内容でも良いんじゃないかなと思います。明確なルールがあるわけではありません。でもそのくらいだったら慣習的にOKだと思いますね(文章は、多少アレンジするなり書き直すなりして、全く同じ文章が並ばないように、使い回さないようにしていただきたいですが)。

出版業界では暗黙の了解というか、認められていることですので、仮に出版契約書に「類似本は他社から出さない」という文言があったとしても、特に気にする必要はありません。

…と言われても、経験をしていないと怖いかもしれません。

そんなときは、まず出版社に聞いてみると良いと思います。「実は今、別の出版社さんからオファーがあるんだけれども、問題ありませんか?」という感じで。

そこで編集者さんが「いや、それはちょっとやめてもらいたい」「今うちでもこの本で伸ばしているから、他社から出ると都合が良くないので…」と言ったら、他社のオファーは断りましょう、という話になるし。

逆に「全然問題ありませんよ」と言うかもしれませんし。この辺は、出版社や編集者の感覚も入ってくるので、「心配だったら聞く」というのが良いと思います。

ただ、一般的なルールとしては気にしなくて良いというのが前提です。

それでも、関係性を崩したくないとか、ちょっと腰が引ける、ということであれば、ヒアリングしてみましょう。これは著者の持っている権利なので、それを活かして、著者としてのステージをどんどん上げてください!