こんにちは、木暮太一です。ぼくは普段、商業出版をプロデュースする出版塾を主宰しています。その中で受講生の皆さんのコンテンツを磨いて出版まで導いています。出版コンテンツをコンサルティングしている中で、出版社が求めるコンテンツがうまく表現されていたものがありましたので、紹介します。

2019年の年末、M-1グランプリで芸人の「かまいたち」さんが、すごいことを言ってたんです。一般的には「漫才」なんですが、ぼくにはビジネスにとても必要なことに聞こえました。どんな話だったか解説します。

この日、かまいたちさんは2本漫才をやりました。ぼくは1本目の方が好きだったんですよ、2本目はいろんな意味でいいネタでした。2本目の漫才のテーマは「自慢」。「何か人に自慢できることありますか」っていうところから始まって、いろいろ話が展開されていくんですが、この時にボケの山内さんは、

「自分はトトロを見たことがない。それが自慢だ」って言ったんですね。

当然、そんなの自慢にならないだろうってツッコミが入るんですが、じつはこの「トトロ見たことがない」という視点がぼくらのビジネスに大きなヒントをくれるんです。

どんなものが「自慢」になり得るか?

「トトロを見たことがない」では自慢にならないと指摘されて、「お前の自慢って何なんだよ」って山内さんが言い返すんです。それに対するツッコミの濱家さんが言ったのは「手品」でした。

自分は手品がうまい、手品は難しいからあんまりできる人がいない、だからこれが自慢だということです。ただ、山内さんはそれに対して「そんなのは自慢じゃない」と指摘します。

濱「みんなより上手に手品ができる。これが自慢や」
山「そんなの自慢にならんだろ。」
濱「なんで?」
山「みんなも練習したら、おまえに追いつけるから」

今からでもみんなお前に追いつける可能性があるから、自慢にはならないという指摘です。そしてそれに対して「トトロを見たことがない」は、これからではみんなが追い付けない、だからこれこそが自慢になる、というボケを展開しました。

これは漫才のネタなんですが、ぼくらのビジネスに一度当てはめて考えてみる価値は大いにあります。

ここで「自慢」を「強み」に置き換えて話を考えてみましょう。自分の強みを生かしてビジネスをしよう、ってよく言われます。それ自体はぼくも賛成です。でも、この「自分の強み」という言葉を誤解してる人がすごく多いんじゃないかなって最近思うんです。

これがちょうどね、「トトロ」と「手品」の関係と同じなんですよね。みんな自分の強みって「自分が得意なこと」と思っていますよね。自分が人よりもうまくできること、それを強みだ、と思っているわけです。でも本当にそれってビジネス的に自慢できる「強み」ですかね。

例えば、今の時代、映像編集に強みがありますって言ったところで、あんまり意味がないんですよね。というのは、初心者でも1週間で追いつけてしまうからです。その人が、映像編集に長けている、映像編集できますって言っても、ぼくが必死に頑張って寝ずに1週間勉強したらおそらく追いつけるんです。

追いつけてしまうから、その人の「強み」は1週間後には「強み」ではなくなってしまう。得意だったものでも、みんなが追い付いてきたら、もはや「得意」とは言えなくなります。その点、「トトロ見たことない」は追いつけないんですよ。トトロを見ちゃった人がいくらがんばっても、「トトロ見たことがない状態」には戻れません。

これは「参入障壁」の話です。ぼくらが強みとして考えなきゃいけないっていうものは、本来「参入障壁」がなければいけないんです。他の人がやろうとしても、できないもの、気が遠くなってあきらめざるを得ないようなもの、それがぼくらのスキルを強みに変えてくれます。

その参入障壁を考えずに、自分が得意なもの強みが強みだって言ったところで、すぐに追いつかれてしまいます。いくら映像編集ができても、すぐに追いつかれてしまうのであればそれを強みとしてビジネスをすることはできません。

強みとは、自分が作った参入障壁も含めて語らなければいけない。そして参入障壁というのは、自分がそこにしてきた積み重ねでしか作れないと思うんです。特許とか、何か特殊な技術とか、自分しか使えないものを設けることで参入障壁は作れます。ただ、それは一部の特殊な例です。iPhoneですら、類似品を他社が作れてしまいますからね。

だからどうするかといえば、他の人たちが追いつこうと思っても、もう気が遠くなるぐらいまで自分が先に行ってればいいんです。

ぼくの経験に追いつくには物凄い時間とコストがかかる

例えば、ぼくは出版に関して誰も追いつけないところまで来ています。著者として25年やっていますし、出版社を経営して17年経ってますし、ぼくは他の人が見られない、書籍の実売データ(POSデータ)をこの17年間、毎日欠かさず見ています。

だから、ぼくが持っている情報量に追いつこうと思っても、今からでは気が遠くなるような時間とコストをかけなければならず、みんな諦めてしまうんです。これが参入障壁になっています。「能力が高いから、センスがいいから他の人に勝てる」ではなく、「これと同じことをやるのに圧倒的な時間とコストがかかるから、他の人がやろうとしない」という状態です。

そして、ぼくは自分が身に着けた知識を活かしてビジネスをしています。これがぼくの「強み」なんです。

自分の強みには参入障壁がなければいけません。参入障壁がなければ、いつでも誰でもあなたと同じところまで来れちゃいますし、みんながあなたのレベルに追いついてきたら、あなたの強みはもはやコモディティになってしまいます。

「トトロ見たことない」のような参入障壁をつくることが、強固なビジネスをつくる第一歩です。