作家しながら出版社を経営し、さらに商業出版をプロデュースしているぼくから見て、本になりやすい職業(と、反対になりづらい職業)について解説をします。

世の中には、いろいろな職業がありますよね。そしていろいろなジャンルの本があります。結論からいうと、どんな職業でも本になります。


本ってね、すごいんですよ。ありとあらゆるテーマが、本になっています。「このジャンルの本は見たことがない」っていうものは、おそらく存在しません。もちろん本屋さんに置いている本もあれば、置いてない本もあります。

中には、ニッチ過ぎて本屋さんに並ばない本もあります。しかし、Amazonにはそのような本もあります。じつに1年間で、7万5000冊ぐらい新しい本が生まれています。10年たてば約75万冊、30年たったら約230万冊。30年の間に約230万冊の新しい本が出ている計算です。ニッチな分野の本が出版されていても、不思議ではありませんね。


どんなテーマでも、どんなジャンルでも本になります。本になるか、ならないかは、ジャンルではなく中身で決まるんですよ。中には「何、当たり前のことを言っているんだ」と思う方もいるでしょう。しかし、これは案外みんなが知らない、考えていないことかもしれません。

本になりやすいのは、ずばり「そのジャンルの中で、誰かに教える仕事をしている職種」です。例えば、ヨガの先生は本になりやすい職業です。ダイエットなど、いろいろな本を出していますよね。ぼくの知り合いは、骨盤矯正に関する本を出しています。

あとはコンサルタントも、本をたくさん出していますよね。それから学校の先生。ぼくが主宰するスクールの受講生にも、学校の先生がたくさんいます。学校の先生はめちゃめちゃ本になりやすい職業です。

なぜこれらの職種が本になりやすいかというと、「教える仕事」だからです。

一方、本になりにくいのは「上場企業の社長」です。
世の中にはいろいろなジャンルで起業して頑張って、中には「起業して数年間で上場しました」という人もいます。本人は「自分で本を書いたら、売れるんじゃないか」と感じています。しかし実は、上場企業の社長の本が、一番作るのに苦労するのです。

これは、「社長本人がイケていない」ということではありません。本人はイケています。
イケているのですが、そのノウハウが体系立っていないのです。「本人の体験談」になってしまうんですよ。そして他人に教えることがなかなか難しいんです。

自分でバリバリ仕事をやってきた。めちゃめちゃ頑張ってきた。その結果を得た。なぜこの結果を得られたか? 短期間で上場できたのか? こんなに業績が上がったのか?

それは、「自分が頑張ったから」なんです。もしくは、「自分が作った組織がすごかったから」なんですよ。要はノウハウ化されていないんです。

上場企業の社長たちは「自分がこうやってきたから、この成功体験を本にしたい」と考えます。しかし、実際に本になりやすいのは、「その本を読んだ人が使えるもの」なんですよね。

つまり、自分の体験談だけだったら意味がありません。「自分はこういうふうにやってこうやって成功しました」だけでなく、「これは、一般化させるとこういうルールです。こういう法則です」と、読者に言えなければならないのです。

ぼくは、上場しているか否かにかかわらず、いろいろな社長の本を手がけてきました。

やはり、「本人しかできないよ」というものはあります。「あなただからできたんじゃないの? 他の人にはできないよ」と読者に思われてしまうこと、もしくは実際にそういうパターンもあります。そうなると、本にするのはなかなか難しいです。なぜなら、再現性がないから。

読者が社長の体験談から学ぶことは、もちろんあります。しかし、読者が実際に知りたいのは、「どうやって、著者がその位置まで行ったのか」「どうすれば、自分も著者のようになれるのか」なのです。

どうすれば、この課題を克服できるのか?
どうすれば、なりたいものになれるのか?

そのやり方を体系立てて説明できないと、本にするのは厳しい。そしてそれを言えるのが、「教える仕事をしている人」なんですよ。経営者は、基本的に誰かに教える仕事はしません。

誰かに教えているのは、むしろその下についている人。例えば人事部長だったり、もしくは2番手の副社長だったりするんですね。

この人たちは組織を回すために、社員を育成するなど、教える仕事に携わっています。
そのような人たちの方が、本になりやすいんですよ。仕事のやり方が体系立っているから。

コンサルタントは、日々、クライアントに対してビジネスを教えています。それから、ヨガの先生。こちらも受講生にヨガを教えています。学校の先生も、生徒に勉強を教えています。そういう人たちは、既に教える内容をカリキュラムとして組んでいます。自分が何を教えたら、相手がどういうふうにリアクションしてくるのかが、わかるんですよ。

ですから、本を書くのに有利なのです。もちろん、経営者のコンテンツがまったく本にならないわけではありません。昔ぼくが手がけた本に、サイバーエージェントの藤田晋さんが執筆した『渋谷で働く社長の告白』があります。

あの本は、特に何かのメソッドを語ったわけではありません。藤田さんの自伝です。非常に良い本です。ぜひ皆さんにも、読んでいただきたいです。そして売れました。めちゃくちゃ売れました。

しかし、あの本はレアケースです。あれと同じものは、なかなか作れません。普通は社長、特に上場企業の社長になると、ライターが新聞記者のようにインタビューして、社長がそれに対して答えていきます。それをライターが文章にしていくんです。
一方『渋谷で働く社長の告白』は、藤田さんが1から全部書きました。ものすごい才能、文章力です。

藤田さんのケースは別ですが、社長が書こうとすると、どうしても「俺の体験談」「私の体験談」になりがちです。ですから「体験談は本になりづらい」ということを知っておいてください。

そういう人たちは、どうすればいいか。自分のことを、誰かに教えてみてください。今後、誰か後継者を育てるとき、社長が教えないといけませんよね。そのように教えてみてください。

そうすると、「自分が今まで当たり前のようにやっていたことが、相手にとっては当たり前ではない」ということに気づきます。もしくは、自分が見えていなかった部分、言語化できていなかった部分、認識していなかった部分を認識できるようになります。

それをやっていくと、どんどんノウハウが体系化され、再現性が高まって、本にしやすくなります。もちろんこの場合は、「本にすること」が最終目標ではありません。自分が考えていること、頭の中にあるものを、アウトプットして残すことが最終目標です。

その通過点として、出版にチャレンジするのも良いと思います。もちろん、すでに先生として、誰かに教える仕事している人は、そのまま書けば本になります。ぜひ出版にチャレンジしてみてください。