商業出版で本を出そうとするときに、いろんな落とし穴があります。今回は、ビジネス書・実用書の著者が手を出してはいけないパターンについて、解説します。いくつかありますので、順番に説明してきます。

1.共著

著者がやってはいけないパターンの1つ目が共著です。共著とは、複数人の著者で書いた本のことで、対談形式だったり、パートごとに著者を分けたりします。共著は著者同士でコンテンツを補完できるメリットがあるので、共著で出したいと感じる著者は割と多くいます。でも、ほとんどのケースで失敗します。つまり、売れないんです。

共著になるとどうしても、その人の本ではなくなってしまい、著者が言いたいことが散漫になるんです。講演会をイメージしていただくとわかりやすいですが、単独の講演会が対談形式の講演会になったとたん、内容が薄くなります。よほど関係性ができている2人でなければ、相手に遠慮して、自分の知識の深い部分を語らなくなります。どうしても会話のキャッチボールが優先されて、本当に深い部分を話さなくなるんです。

書籍でも一緒です。単著では思う存分語れるようなことも共著になった瞬間、著者同士の共通点を探るようになり、比較的浅いコンテンツが出てくることになります。だから一般的に言うと、共著はあまり面白い本には見えません。

読者からだけでなく、出版社から見ても、共著はあまり魅力的に映りません。共著を提案してくるのはコンテンツに自信がないからだろうな、と感じられることがあります。自分一人でその本を書く自信がないから、複数人で責任を分担したいだけじゃない? と思われるのです。

なので、共著には手を出さない方がいいです。

2.ストーリー形式の本

商業出版を実現させようとしている著者がハマる落とし穴の2番目のあるあるパターンは「ストーリー形式の本」です。ストーリー形式で自分のコンテンツを本にしたいと思っている著者は割と多いです。でも、それは辞めた方がいいです。

こちらの記事でも書いていますが、ビジネス書や実用書を書くのが「講演」だとすると、ストーリー形式で表現するのは「演劇」です。

演劇には表現力や構成力、惹きつける力が必要ですね。台本だけあればいいわけじゃないし、コンセプトがしっかりしていたとしても、表現力がなければつまらないものになってしまう。つまり、語る内容と表現力の両方がなければ成立しないんです。

優れた講演家であり、かつ優れたパフォーマーであれば、できるかもしれませんが。相当難易度が高いです。まずは、コンテンツの中身だけで勝負した方がいいですね。

3.「続編をうちから出してください」

駆け出しの著者がベストセラーを出すと、多くの出版社が声をかけてきます。一方で、ベストセラーを連発しているベテランの著者にはなかなか新規のアプローチが来ません。誤解を恐れずに言うと、それは「ちょろそうだから」です笑

ベストセラーを連発しているベテラン著者は、これまでに特定の出版社や特定の編集者と関係性ができていて、新規の出版社がそこに入り込む余地がない(と出版社が勝手に思っています)。ぼくもよく言われました。「木暮さんはダイヤモンドさんとサンマーク出版さんからしか出さないんですよね?」って。ぼくとしてはそんなつもりはないんですが、結果的にダイヤモンドさん、サンマークさんにお世話になることが多いので、他の出版社を相手にしていないように見えているのかもしれません。

一方で、駆け出しの著者はそういう関係性がありません。そしてまだ新人なので、ちょろそうなんです。ぼくも2009年にダイヤモンドさんから『今までで一番やさしい経済の教科書』を出版してもらい、すぐに10万部を突破しました。その後、50社を超える出版社からアプローチを受けたのを覚えています。

もちろんありがたいことなんですが、ここで著者が注意しなければいけないことがあります。それが「続編」です。多くの出版社はベストセラーになったネタと同じものを書いてほしいと言ってきます。つまり「続編をうちで」ってことなんです。

でもこれをやっちゃうと著者としてアウトです。最初の出版社にも不義理を働くことになりますし、さらには同じようなネタをどんどん出してしまえば、「いつも同じようなことを書いている著者」になってしまいます。そして著者として出がらし状態にされてしまう。

ベストセラーを出したときほど、新規のアプローチには慎重になり、これまでのつながりを大事にした方がいいです。

4.監修

これも出版業界の「あるある」です。特にベストセラーを出した後に監修の話が来ます。つまり、著者として執筆の依頼を受けるのではなく「監修者」として、書籍の依頼を受けることがあります。

監修は自分で原稿を書かず、誰かほかの人が書いた原稿を読んで、間違いがないかチェックする、そして太鼓判を押すって役割です。原稿を書かなくていいですし、監修料として多少お金をもらえますので、とても「楽」な仕事に見えます。そして多くの著者がお小遣い稼ぎにやろうとします。

でもここは気を付けた方がいい。監修というのは、出版社にとってとても都合がいい肩書です。著者にとって都合がいいのではなく、出版社にとってとても都合がいいんです。というのは、その人が監修者になってくれているだけで、その人のコンテンツをすべてパクっていいという状態になるからです。

Aという本がベストセラーになったとしましょう。この著者が監修の依頼を受けると、その新しい本に「A」のコンテンツがかなり使われます。

でもその著者は、単なる「監修者」なので、印税ではなく、監修料をもらうだけです。つまり、自分のコンテンツを微々たる監修料で売り渡してることになるんです。

出版社からすると、すでにベストセラーになっているおいしいコンテンツを超安く使うことができる。簡単に焼き直し本を作ることができる。元の親本は売れなくなりますが、そんなことは知ったこっちゃないです。

監修を引き受けるということは、自分のコンテンツや自分のネームバリューを安く売り渡すことにもなります。それを承知でやる意味を感じる場合はいいと思います。でもそうでなければ、やめた方がいいですね。


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