はじめに 出版企画書は人生を「確実に」変える
「出版企画書を書けば、本が出版できる」
そんなことも言われます。ぼくもその通りだと思います。
ただ、実際にはなかなかこれが難しい。企画書を作ることが難しいのではなく、それを「明確にすること」が難しいんです。明確にしたつもりでも、明確になっていません。
たとえば、「自分の経験を本にしたいんです。本になりますか?」と目を輝かせて語っている人がいます。想いとしてはわかります。ですが、「自分の経験」とはどういう状態を指すのでしょうか?ビジネス経験のことを指すのか、プライベートの経験を指すのか、もしくは大学時代の経験のことを言っているのでしょうか?
自分の経験を本にしたいという表現で、言葉にしているつもりになっていますが、実際は何も表せていません。そして何も表せていないから、どうすればその状態になれるかもわかりませんし、実際に何か行動に移すこともできません。
多くのケースでは、表現したつもりで表現できていないんです。これは言語化の問題です。ぼくらが使っている言葉は、じつはとても曖昧です。明確にしたつもりであっても、明確になっていない。だからいざ行動に移そうと考えても、何をしていいかわからなくなってしまうんです。
ぼくらはみんな、日々まじめに出版企画書を書いています。ですが、その努力とは裏腹に望んでいることを実現できていません。それは言語化できていないからです。言語化できれば、自分の出版企画を明確にとらえることができる、言語化できれば編集者に伝わる、言語化できれば編集者にしっかり評価される。
出版社経営者が語る 採用される出版企画書の書き方
出版企画書は商業出版の成否を分ける最重要ツールです。このガイドでは、累計195万部の実績があり、かつ出版社を20年経営しているぼく自身の経験に基づき、編集者の心を掴む企画書作成術を解説します。特に「Word使用の必然性」「読者像の具体化手法」「差別化要素の抽出技術」に焦点を当て、初心者が1ヶ月で出版決定に至る実践的フレームワークをお伝えします。
「出版企画書」って本当はどういうもの?
商業出版における企画書の戦略的位置付け
出版企画書は単なる「まとめ資料」ではありません。編集者との対話を誘発する「戦略的文書」として位置付けるべきです。ぼくの経験では、優れた企画書は「読者価値」「市場性」「著者権威」の3要素をバランスさせた際に成立します。特に重要なのは、企画書が編集者の社内稟議を通すための材料となる点です。
編集者は企画会議で上司・営業部・経営者を説得する必要があります。そのもとになるデータや具体例を盛り込んだ「説得の根拠」が不可欠となります。ぼくが過去に手掛けた2000冊以上の企画書では、常に「編集者が稟議で使える材料」を意識して作成しています。
業界構造から見た企画書要件
出版業界は少し特殊です。そして、パワーポイントは使いません。一般的な提案書や企画書はパワポで作ることが多いですが、出版業界ではそれはNGです。編集者はパワポを使わないので、Wordで作らなければいけません。
これは出版業界がテキストベースの文化を保持しているためで、ビジュアル重視の他業界の企画書手法が通用しない典型的な例と言えます。ぼく自身も出版社経営者として、過去に様々な企画書に目を通し、同時に様々な企画書を作ってきましたが、パワポは一度も使っていません。
編集者視点の企画書設計術
心理的負荷軽減のフォーマット設計
編集者は日々多くの企画をの提案を受けています。出版社には毎日毎日多くの売り込みがされています。多いところだと月に数百件にのぼります。そして、残念ながらそれらのほとんどが「箸にも棒にもかからない企画書」です。
理由はいくつかありますが、一番いけないのが「何が言いたいのかわからない表現になっていること」です。著者自身は意味が分かっても、他人には伝わらない表現だったり、そもそも日本語として成立していなかったり、コンテンツの内容以前に「何がいいたいの?」となってしまっている企画書が9割以上です。
出版企画書に限らず、ビジネスで大事なのはパッと見て理解できることです。
全体像が把握できる構造設計が必須です。具体的にいうと、A4用紙に「タイトル」「企画概要」「著者プロフィール」「目次案」を入れ込みます。
市場性証明のデータ活用法
出版企画書を作る際には、類書(同ジャンルの本)の分析が欠かせません。ほとんどの著者は「私が考えていることは価値があって、今までこんな本はなかった」と強く主張しています。でも、出版社からすると「……だから何?」という状態なんです。
今までその内容の本がなかったのは、出版業界的にニーズがなかったから、という可能性もありますよね。というより、ほとんどそのケースです。
出版社は「これまでなかった本」を出したいのではなく、「売れそうな本」を出したいんです。ここがポイントです。当たり前の話に聞こえて、99.99%の著者が見落としているポイントです。
大事なのは「売れる本」ではなく、「売れそうな本」と書いているところですよ。もちろん作った本が売れてくれないと出版社は困っちゃいます。でも売れるかどうかなんて未来のことは「確実」ではありませんね。大事なのは「売れそうな本」であることです。
そして「売れそうな本」かどうかは、じつはあなたの企画の質ではなく、別の要素で決まっています。それが「類書の実績」なんです。類書が売れていると「このジャンルは売れそう」と思ってもらえる。逆に類書が売れていないと「その類の本は売れないんですよねー」と断られてしまう。
だから類書の分析がとても重要なんです。
差別化要素の構築手法
差別化がなければ無視される
次に必要なのが「差別化」です。差別化を語らなければ編集者に無視されます。
というのは、あなたが書こうとしているジャンルにはすでに多数の本があるからです。そしてそれらの本との差別化を語れなければ、あなたの本を出す意味がないからです。
お伝えしておくと、差別化とは「あの本とは違います」という点ではありません。「違い」にも重要なものとそうでないものがあります。お店の看板の色が違っていても「差別化戦略」とは言えないように、「今までの本とは違います」と主張することはほぼ意味がありません。
「これまでの本とはこの点が違います」という言い方をせずに差別化を表現してみてください。それができなければ、あなたの企画は差別化ができていないことになります汗
「想定読者」の具体化手法
その企画が誰向けのものなのかも明確にしなければいけません。多くの著者は、読者層の年齢や仕事内容などスペックで表現しようとします。たとえば「大企業に勤めている30代ビジネスパーソン」というような表現方法です。でもこれらは「想定読者」を明確にしていることにはなりません。
大企業に勤めているから、30代だから、あなたの企画に興味を持つのではないですよね。相手があなたに興味を持つのは「相手の悩みが解決するから」です。だから、ぼくらが考えなきゃいけない想定読者は「○○に悩んでいる人」です。
この表現で自分の企画が誰向けなのかを考えてみましょう。
実践的フォーマットの詳細
企画書に盛り込む内容
出版企画書には、編集者に興味を持たれるような要素を記載します。では実際に何を書けばいいのでしょうか? AIに「出版企画書の書き方」を聞いたところ以下の回答が出てきました。
- タイトル案(15%):3パターン提示が理想
- 著者権威(25%):経歴の数値化が必須
- 市場分析(30%):競合比較表を含む
- コンテンツ概要(20%):目次草案レベル
- プロモーション案(10%):著者発信力の提示
うーん、率直に言って大きく違います笑 というか、そもそも何を指しているのかわからないですね。
仮タイトルは書きますが、それは「タイトル案」ではありません。
著者権威を書くというのはだいぶ誤解です。表現しなければいけないのは権威ではなく「著者の経験」です。
市場分析は企画書に書いてはいけません。著者は市場データを見ることができません。なので、著者は市場を分析することはできません。あなたもデータを見ていない業界外の人に「市場を分析してきました」と言われたら、かなり違和感を持つのではないでしょうか?
企画書には著者として、編集者に興味を持ってもらえるための要素を書かなければいけません。
あるあるの失敗事例
通らない出版企画書には理由がある
通る企画書があれば、通らない企画書があります。そして通らない出版企画書には理由があります。
- 自己顕示欲がものすごい出てしまっている
- 類書を読んでいない
- 差別化を表現していない(差別化に目が向いていない)
- 読者にどうお役立ちできるかという視点がない
- プロモーションを考えていない
そもそも、商業出版で本を出すということは、読者にプラスになる内容でなければいけません。そして、それと同時に、出版社の利益になるものでなければいけません。
ほとんどの著者は「私はこういう本が出したい」という視点が大きすぎて、読者・出版社に対して何ができるかを見失っています。それでは商業出版は実現しません。
修正プロセスの実践事例
あるITプログラマーのケースでは、もともと彼が作ってきた企画書が「この本を読んで、自分に仕事をくれ」という意図がToo muchでした。本を読んでもらって、読者から仕事の発注を受けることは構いませんし、それが商業出版の一つの大きなメリットでもあります。しかし、仕事をもらうのであれば、その前に相手に貢献しなければいけませんね。
ぼくは彼の企画書を書き直し、経営者の悩みを解決する内容に変化させました。その結果、3社から出版オファーをもらえました。
結論
出版企画書作成は、単なる「コンテンツのまとめ資料」ではなく、提案書であり、自己紹介資料です。
ぼくが実践してきたメソッドの核心は、編集者が知りたいポイント、評価するポイントを浮き彫りにすることです。これでぼくの受講生さんたちは、累計で2000冊以上の本を出版してきました。大事なのは、相手が欲しいものを提示すること。営業もビジネスもすべて一緒ですね。
おわりに 言語化できれば、出版企画書を「確実に」通せる
出版企画書は、センスではありません。誰でも採用される企画書を身につけることができます。考え方とフォーマットを身につけさえすれば、自分の出版したい内容を言語化することができます。
ぼくは中学校2年生の頃から言語化に関心を持ち始め、既に30年以上研究をしてきました。そして出版社経営者として、これまで数多くの企画書を見てきました。本ガイドを通じて、自分の中の感覚を言語化できる喜びを一人でも多くの方に感じてもらえたら、本当にうれしいです。
ぼくらはみんな、本を出したいという気持ちを持っています。ですが、その願いを実現できていません。それは言語化できていないからです。言語化できれば、自分の企画が明確になり、編集者に伝わり、そして出版社から採用されるようになります。本ガイドの内容を実践することで、あなたの出版企画書は**「確実に」**採用される確率が高まります。