先日のブログで、差別化について解説しました。編集者は差別化ポイントが明確な企画をとても評価しますし、逆に差別化できていない企画はなかなか出版に至りません。
今日は、その続きの話をします。今日のテーマは、「売れている本と同じテーマが採用される」です。編集者は売れている本と同じテーマを採用しがちです。編集者個人もそうですが、出版社全体として、売れている本と同じテーマ、同じ切り口の企画を採用しがちです。
は? 何言ってるの? 差別化が大事と言っておきながら、「同じ切り口が評価される」って矛盾してない?
そう感じたかと思います。そう思いますよね。矛盾してると思いますよね。その通り、矛盾しているんです。
正確に言うと、矛盾しているというより、「これも評価される」という感じです。編集者(出版社)は売れている本と同じ方向性、同じテーマ、同じような切り口、同じような構成の企画を採用しがちです。
なぜ売れている本と同じ切り口が好まれるのか?
なぜか? もちろん、その編集者は差別化が大事だと思っています。でも売れている本と同じ方向性の企画を評価します。それは「売れるイメージがあるから」です。
実際、出版社の企画会議(その本を出すかどうか決める会議)では、類書(同ジャンルの本)の成績がかなり重視されます。「類書が売れていたら、この本もやろう」「類書が苦戦していたら、うーーーーん、この本も厳しいかもなぁ」という判断をするんです。
ほとんどの出版社で同じような判断をします。実際、類書が売れていないテーマの企画はかなり通過させるのが難しいですし、逆に類書が売れていたら(失礼な話)超粗削りでも企画が通ることがあります。
『嫌われる勇気』の前と後
たとえば、アドラー心理学はその最たる例ですね。ご存じ『嫌われる勇気』はアドラー心理学の本です。この本は大ベストセラーになっていて、発売から8年たった現在でもベストセラーランキング全国トップ10に入るくらいです。
そして『嫌われる勇気』が出版されてからというもの、アドラー心理学の本が続々と出版されています。『嫌われる勇気』が売れたからです。そして一方で、『嫌われる勇気』が出版される前は、アドラー心理学の本はほとんど出版されていません。
アドラーはユング、フロイトと並ぶ歴史的な心理学者です。にもかかわらずアドラーの本がほとんど出版されていなかった。それは、それまでのアドラー心理学の本が(それほど)売れていなかったからです(ちなみに、ぼくは出版社を経営しているので、各書籍の売れ部数をPOSデータで見ることができます)。
アドラー心理学のおもしろさがこの10年で変わったわけではありませんね。昔から変わっていないはずです。でも過去は数えるほどしか本が出ていなかった。そして『嫌われる勇気』が出た後は、大量のアドラー本が誕生した。
『嫌われる勇気』以前は、アドラー心理学の類書はそれほど売れていなかった、『嫌われる勇気』が出た後は、『嫌われる勇気』を類書として参考値にするようになったので、出版社の評価が変わったということです。
出版企画は「見た目が9割」
出版社はそれほど「類書の実績」をもとに、その本を出すかどうかを決めているということです。本来であれば、その企画単体のクオリティを見てほしいところですが、そうはなりません(現実的にはクオリティを正確に判断することはできませんし)。
ということは、ぼくらの企画が通るかどうかは、過去の類書の実績が大きく影響していることになりますね。そして企画を通すためには、売れている類書のジャンルに重ねることが重要になります。
若干、小手先のテクニックな感じがしますが、これも戦略です。売れている本の類書だと思ってもらえれば出版社の印象はとてもよくなります。そして逆に、売れていない本の類書だと思われると、「ダメだろうな」と考えられてしまいます。
人は見た目が9割と言われますが、出版企画も「見た目が9割」です。コンテンツを磨くことは大事ですが、それと同じくらい「どう見せるか」を考えていきましょう。
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